●子どもの売買、子ども買春および子どもポルノグラフィーに関する選択議定書
2000年5月25日
(平野裕二訳)
この議定書の締約国は、
子どもの権利に関する条約の目的およびその規定、とくに第1条、第11条、第21条、第32条、第33条、第34条、第35条および第36条の実施をさらに達成するためには、子どもの売買、子ども買春および子どもポルノグラフィーからの子どもの保護を保障するために締約国がとるべき措置を拡大することが適当であることを考慮し、
また、子どもの権利に関する条約が、子どもが経済的搾取および危険があり、もしくはその教育を妨げ、またはその健康または身体的、精神的、霊的、道徳的もしくは社会的発達にとって有害となるおそれのあるいかなる労働に従事することからも保護される権利を認めていることも考慮し、
子どもの売買、子ども買春および子どもポルノグラフィーを目的とした国際的な子どもの取引が相当規模で行なわれかつ増加していることを重大に懸念し、
子どもがとくに被害を受けやすいセックス・ツーリズムの慣行が広範に存在しかつ継続していることを、それが子どもの売買、子ども買春および子どもポルノグラフィーを直接助長するものであるゆえに深く懸念し、
女子を含む、とくに傷つきやすい立場に置かれた多くの集団は性的に搾取される危険がさらに高いこと、および性的に搾取された者のなかで女子が不相当に高い割合を占めていることを認め、
インターネットその他の発展しつつある技術によって子どもポルノグラフィーがますます入手しやすくなっていることを懸念し、かつ、インターネット上の子どもポルノグラフィーとの闘いに関する国際会議(ウィーン、1999年)、とくに、子どもポルノグラフィーの製造、流通、輸出、送信、輸入、意図的な所持および広告を世界的に犯罪とするよう呼びかけ、かつ政府とインターネット産業間の協力およびパートナーシップを強化することの重要性を強調した同会議の結論を想起し、
子どもの売買、子ども買春および子どもポルノグラフィーの撲滅が、低開発、貧困、経済的格差、不公正な社会経済的構造、機能不全家族、教育の欠如、都市と非都市部間の移住、ジェンダーによる差別、成人の無責任な性行動、有害な伝統的慣行、武力紛争および子どもの取引を含む助長要因にとりくむホリスティックなアプローチをとることによって促進されるであろうことを信じ、
また、子どもの売買、子ども買春および子どもポルノグラフィーに対する消費者の需要を減少させるためには公衆の意識を喚起する努力が必要であることも信じ、さらに、あらゆる主体間の地球規模のパートナーシップを強化しかつ国内レベルにおける法執行を向上させることが重要であることを信じ、
国際養子縁組に関わる子どもの保護および協力に関するハーグ条約、子どもの奪取の民事面に関するハーグ条約、親の責任および子どもの保護のための措置に関わる管轄権、適用可能な法、承認、執行および協力に関するハーグ条約、および最悪の形態の児童労働の禁止および撲滅のための即時的行動に関するILO第 182号条約を含む、子どもの保護に関わる国際法文書の規定に留意し、
子どもの権利の促進および保護に関して広範な決意が存在している証である、子どもの権利に関する条約に対する圧倒的な支持を心強く思い、
子どもの売買、子ども買春および子どもポルノグラフィーの防止のための行動計画ならびに1996年の子どもの商業的性的搾取に反対するストックホルム会議の宣言および行動綱領の規定、ならびに関係国際機関のその他の関連の決定および勧告を実施することの重要性を認め、
子どもの保護および調和のとれた発達のためには各人民の伝統および文化的価値観が重要であることを正当に考慮し、
次のとおり協定した。
第1条(子どもの売買等の禁止)
締約国は、この議定書が規定する子どもの売買、子ども買春および子どもポルノグラフィーを禁止する。
第2条(定義)
この議定書の適用上、次の用語は次のことを意味する。
(a)子どもの売買とは、子どもが、いずれかの者または集団により、報酬または他の何らかの見返りと引換えに他の者に譲渡されるあらゆる行為または取引を意味する。
(b)子ども買春とは、報酬または他の何らかの形態の見返りと引換えに性的活動において子どもを使用することを意味する。
(c)子どもポルノグラフィーとは、実際のまたはそのように装ったあからさまな性的活動に従事する子どもをいかなる手段によるかは問わず描いたあらゆる表現、または主として性的目的で子どもの性的部位を描いたあらゆる表現を意味する。
第3条(立法上・行政上の措置)
1.各締約国は、最低限、次の行為および活動が、このような犯罪が国内でもしくは国境を越えてまたは個人的にもしくは組織的に行なわれるかを問わず、自国の刑法において全面的に対象とされることを確保する。
(a)第2条(a)で定義された子どもの売買との関連では、次の行為および活動。
(i) いかなる手段によるかは問わず、次の目的で子どもを提供し、引き渡しまたは受け取ること。
-子どもの性的搾取
-利得を目的とした子どもの臓器移植
-強制労働に子どもを従事させること
(ii) 養子縁組に関する適用可能な国際法文書に違反し、仲介者として不適切な形で子どもの養子縁組への同意を引き出すこと。
(b)第2条(b)で定義された子ども買春の目的で子どもを提供し、入手し、周旋しまたは供給すること。
(c)第2条(c)で定義された子どもポルノグラフィーを製造し、流通させ、配布し、輸入し、輸出し、提供し、販売し、または上記の目的で所持すること。
2.締約国の国内法の規定にしたがうことを条件として、前項のいずれかの行為の未遂および共謀または当該行為のいずれかへの参加に対しても同様のことが適用される。
3.各締約国は、当該犯罪を、その深刻な性質を考慮に入れた適切な刑罰によって処罰する。
4.自国の国内法の規定にしたがうことを条件として、各締約国は、適切な場合には、この条の1に定められた犯罪に関して法人の責任を定めるための措置をとる。締約国の法原則にしたがうことを条件として、当該法人の当該責任は刑事上、民事上または行政上のものとすることができる。
5.締約国は、子どもの養子縁組に関与するすべての者が適用可能な国際法文書にしたがって行動することを確保するためにあらゆる適切な立法上および行政上の措置をとる。
第4条(国内裁判権)
1.各締約国は、第3条の1に掲げられた犯罪が自国の領域においてまたは自国に登録された船舶もしくは航空機において行なわれた場合に当該犯罪に対する裁判権を設定するため、必要とされる措置をとる。
2.各締約国は、次の場合には、第3条の1に掲げられた犯罪に対する裁判権を設定するために必要とされる措置をとることができる。
a-罪を犯したと申し立てられている者が自国の国民または自国の領域に常居所を有する者である場合
b-被害者が自国の国民である場合
3.各締約国はまた、罪を犯したと申し立てられている者が自国の領域内におり、かつ当該犯罪が自国の国民によって行なわれたという理由でその者を他の締約国に引き渡さない場合、上記の犯罪に対する裁判権を設定するために必要とされる措置をとる。
4.この議定書は、国内法にしたがって行使されるいかなる刑事裁判権も排除するものではない。
第5条(犯罪人の引渡し)
1.第3条の1に掲げられた犯罪は、締約国間の現行のいかなる犯罪人引渡し条約にも引渡し犯罪として含まれていると見なされ、かつ、今後締約国間で締結されるあらゆる犯罪人引渡し条約に、当該条約に掲げられた条件にしたがって引渡し犯罪として含められる。
2.条約の存在を引渡しの条件としている締約国が、引渡し条約を締結していない他の締約国から引渡しの請求を受けた場合、当該締約国はこの議定書を当該犯罪に関わる引渡しの法的根拠と見なすことができる。引渡しは、被請求国の法律が定める条件にしたがって行なわれる。
3.条約の存在を引渡しの条件としていない締約国は、被請求国の法律が定める条件にしたがうことを条件として、締約国間で当該犯罪を引渡し犯罪と認める。
4.当該犯罪は、締約国間における引渡しの実行上、その発生地のみならず、第4条にしたがって裁判権を設定することを求められている国の領域においても行なわれたものとして取り扱われる。
5.第3条の1に掲げられた犯罪に関して引渡しの請求が行なわれ、かつ被請求国が当該犯罪者の国籍を理由として引渡しを行なわないまたは行なう意思を有しない場合、被請求国は当該事件を自国の権限ある機関に付託して訴追するために適切な措置をとる。
第6条(共助)
1.締約国は、第3条の1に掲げられた犯罪に関する捜査または刑事手続もしくは引渡し手続との関連で、手続のために必要な利用可能な証拠の入手における共助を含む最大限の共助を行なう。
2.締約国は、締約国間に存在する、司法共助に関するあらゆる条約その他の協定にしたがって前項にもとづく義務を履行する。そのような条約または協定が存在しない場合、締約国は自国の国内法にしたがって共助を行なう。
第7条(押収・没収・施設閉鎖)
締約国は、自国の国内法の規定にしたがうことを条件として、次のことをする。
(a)適切な場合には次のものの押収および没収に対応するための措置をとること。
(i) この議定書にもとづく犯罪を行なうためまたはその便宜をはかるために用いられる、資料、資産その他の手段のような物品
(ii) 当該犯罪から生じる収益
(b)上記の物品または収益の押収または没収を求める他の締約国からの請求を実行すること。
(c)当該犯罪を行なうために用いられる施設を一時的または恒久的に閉鎖することを目的とした措置をとること。
第8条(被害を受けた子どもの保護)
1.締約国は、この議定書で禁じられた慣行の被害を受けた子どもの権利および利益を、とくに次のことによって刑事司法手続のあらゆる段階において保護するため、適切な措置をとる。
(a)被害を受けた子どもがとくに傷つきやすい立場に置かれていることを認めること、および、証人としての特別なニーズを含むその特別なニーズを認めるため手続を適合させること。
(b)被害を受けた子どもに対し、その権利、その役割ならびに訴訟手続の範囲、時期および進行について、およびその事件の処理について、告知すること。
(c)被害を受けた子どもの個人的利益が影響を受ける場合、その意見、ニーズおよび関心が、国内法の手続規則に一致する方法で訴訟手続において提出されかつ検討されることを認めること。
(d)法的手続全体を通じ、被害を受けた子どもに適切な支援サービスを提供すること。
(e)被害を受けた子どものプライバシーおよびアイデンティティを適切に保護し、かつ、被害を受けた子どもの特定につながりうる情報の不適切な流布を避けるため国内法にしたがって措置をとること。
(f)適切な場合には、被害を受けた子どもならびにその家族および子どもの側の証人に対し、脅迫および報復からの安全を確保すること。
(g)事件の処理、および被害を受けた子どもへの賠償を認めた命令の執行において不必要な遅延を避けること。
2.締約国は、被害者の実年齢が定かでないことにより、被害者の年齢を確定することを目的とした調査を含む刑事捜査の開始が妨げられないことを確保する。
3.締約国は、この議定書に掲げられた犯罪の被害を受けた子どもが刑事司法制度によって取り扱われるさい、子どもの最善の利益が第一義的に考慮されることを確保する。
4.締約国は、この議定書で禁じられた犯罪の被害を受けた子どもに対応する者を対象として、とくに法律および心理学に関する適切な訓練を確保するための措置をとる。
5.締約国は、適切な場合には、当該犯罪の防止ならびに(または)当該犯罪の被害を受けた子どもの保護およびリハビリテーションに従事する者および(または)機関の安全および不可侵性を保護するための措置をとる。
6.この条のいかなる規定も、罪を問われた者が公正な裁判を受ける権利を妨げまたはその権利と一致しないものとして解釈してはならない。
第9条(その他の実施措置)
1.締約国は、この議定書に掲げられた犯罪を防止するための法律、行政措置、社会政策およびプログラムを採用または強化し、実施しかつ普及する。このような慣行の被害をとくに受けやすい子どもを保護するため、特段の注意が払われるものとする。
2.締約国は、この議定書に掲げられた慣行の防止措置および有害な影響について、あらゆる適切な手段による情報提供、教育および訓練を通じ、子どもを含む公衆一般の意識を促進する。この条にもとづく義務を履行するにあたり、締約国は、国際的レベルにおけるものも含めて、そのような情報提供ならびに教育計画および訓練計画への、地域共同体ならびにとくに子どもおよび被害を受けた子どもの参加を奨励するものとする。
3.締約国は、当該犯罪の被害者に対し、その全面的な社会的再統合および全面的な身体的および心理的回復を含むあらゆる適切な援助を確保することを目的として、あらゆる実行可能な措置をとる。
4.締約国は、この議定書に掲げられた犯罪の被害を受けたすべての子どもが、法的に責任のある者に対して差別なく被害賠償を求める充分な手続にアクセスできることを確保する。
5.締約国は、この議定書に掲げられた犯罪を広告する資料の製造および配布を効果的に禁ずることを目的とした適切な措置をとる。
第10条(国際協力)
1.締約国は、子どもの売買、子ども買春、子どもポルノグラフィーおよび子どもを対象としたセックス・ツーリズムをともなう行為の防止、発見、捜査ならびに当該行為に責任を負う者の訴追および処罰のための国際協力を、多国間、地域間および二国間協定により強化するためあらゆる必要な措置をとる。締約国はまた、自国の公的機関、国内的および国際的非政府組織と国際機関間の国際的協力および調整も促進するものとする。
2.締約国は、被害を受けた子どもを、その身体的および心理的回復、社会的再統合および帰還に関して援助するための国際協力を促進する。
3.締約国は、子どもが子どもの売買、子ども買春、子どもポルノグラフィーおよび子どもを対象としたセックス・ツーリズムの慣行の被害を受けやすくなることを助長する、貧困および低開発のような根本的原因に対応するための国際協力の強化を促進する。
4.援助を与える立場にある締約国は、既存の多国間、地域間、二国間その他のプログラムを通じ、財政的、技術的その他の援助を提供する。
第11条(既存の権利の確保)
この議定書のいかなる規定も、次のものに含まれる規定であって、子どもの権利の実現にいっそう貢献する規定に影響を及ぼすものではない。
(a)締約国の法
(b)締約国について効力を有する国際法
第12条(締約国の報告義務)
1.各締約国は、当該締約国について議定書が効力を生ずるときから2年以内に、議定書の規定を実施するために取った措置に関する包括的な情報を提供する報告を、子どもの権利に関する委員会に提出する。
2.包括的な報告の提出後は、各締約国は、条約第44条にしたがって子どもの権利に関する委員会に提出する報告に、議定書の実施に関するすべての追加的な情報を含める。議定書の他の締約国は5年ごとに報告を提出する。
3.子どもの権利に関する委員会は、締約国に対し、この議定書の実施に関する追加的な情報を求めることができる。
第13条(署名・批准・加入)
1.この議定書は、条約の締約国または署名国であるすべての国による署名のために開放しておく。
2.この議定書は、批准されなければならず、またはすべての国による加入のために開放しておく。批准書または加入書は国際連合事務総長に寄託する。
第14条(効力発生)
1.この議定書は、10番目の批准書または加入書の寄託ののち3か月で効力を生ずる。
2.この議定書は、効力が生じたのちに批准しまたは加入する国については、その批准書または加入書が寄託された日ののち1か月で効力を生ずる。
第15条(廃棄)
1.いずれの締約国も、国際連合事務総長にあてた書面による通告により、いつでもこの議定書を廃棄できるものとし、同事務総長は、その後その廃棄を条約の他の締約国およびすべての署名国に通知する。廃棄は、国際連合事務総長が通告を受領した日ののち1年で効力を生ずる。
2.当該廃棄は、その効力が生ずる日の前に生じたいかなる行為についても、この議定書に基づく義務から締約国を解放する効果を有しない。また、当該廃棄は、その効力が生ずる日の前にすでに委員会の検討対象となっているあらゆる問題の継続的検討を、いかなる形でも害するものではない。
第16条(改正)
1.いずれの締約国も、改正を提案し、かつ改正案を国際連合事務総長に提出することができる。同事務総長は、ただちに締約国に当該改正案を送付するものとし、当該提案の審議および投票のための締約国会議の開催についての賛否を示すよう要請する。当該改正案の送付の日から4か月以内に締約国の3分の1以上が会議の開催に賛成する場合には、同事務総長は、国際連合の主催のもとに会議を招集する。会議において出席しかつ投票する締約国の過半数によって採択された改正案は、承認のため、国際連合総会に提出する。
2.この条の1にしたがって採択された改正は、国際連合総会が承認し、かつ締約国の3分の2以上の多数が受託したときに、効力を生ずる。
3.改正は、効力が生じたときには、改正を受託した締約国を拘束するものとし、他の締約国は、改正前のこの議定書の規定(受託した従前の改正を含む)により引き続き拘束される。
第17条(正文)
1.この議定書は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語およびスペイン語をひとしく正文とし、国際連合に寄託される。
2.国際連合事務総長は、この議定書の認証謄本を条約のすべての締約国および署名国に送付する。
※見出しは利用者の便宜のため訳者がつけたものであり、正文には含まれていない。